「早く決めろ」の徹底で、自走できる筋肉質な組織をつくるリーダー
はじめまして、松下力と申します。ニッカル商工株式会社の代表取締役として、アルミニウムや非鉄金属の加工業に従事しております。当社では、1957年の創業以来、幅広いお客様のご要望に応じて多様なアルミ製品・非鉄金属資材のご提案や最適な加工を行ってきました。法人様から個人・行政・教育機関まで幅広く取引実績があり、誠実な対応と迅速な納品を心がけております。経営目標『理想的なエコロジー素材「アルミニウム」の普及を通じて世の中を軽くCOOL にする』を掲げ、「お客様のお役に立つプロ集団」であるべく奮闘しているところです。
松下 力の強み
私の強みは、老舗企業の伝統を受け継ぎつつ、新しい時代の経営課題に即応するスピード感を重視している点です。外部での社会経験を経て社長に就任し、現場の声をキャッチして迅速な意思決定を行うことで、業界の変化や顧客ニーズに柔軟かつ的確に対応しています。また、社員の知的レベル向上にも注力し、経済知力テストの導入など社内教育制度を整備。こうした組織力と迅速な対応力を両立させ、質を落とさず持続可能な企業運営を目指しています。
アルミニウム加工の伝統を重んじつつ、スピード経営で変化に挑む松下力社長。社員の知的成長を支え、100年企業に向けてひた走るそのビジョンに迫る。
私がこの道を選んだきっかけ
「経営をするために、給料をもらう側の立場を理解しておきたかったのです」。
祖父が創業した会社を継ぐ意識は、幼い頃から根付いていた。しかし、最初から家業の会社に入社するのではなく、自身の力で就職先を掴み取った。
そこは1500人規模で、毎年300人が入社しては辞める、いわゆるブラック企業だったという。消耗品のように扱われる理不尽さ、社会の厳しさをその身に刻み込んで2年が経った頃、父親から「そろそろ戻ってきたらどうだ。」と声がかかった。松下社長は「悪魔の囁きだった」と笑いながら話してくれた。
家業であるニッカル商工に戻ってからは、先代である父親との激しい衝突が待っていた。昭和18年生まれで高度経済成長期を生き抜いてきた父と、昭和48年に生まれバブル崩壊後の「失われた時代」を生きてきた松下社長の間には、埋めがたい価値観の溝が存在した。
「とにかく物を捨てられない人」である父と、「物を捨てたくてしょうがない」息子。「後出しじゃんけんをしたい」父と、「すぐ決めたい」息子。その対立は「何から何まで全部合わない」というほど、熾烈を極めた。
「父が『少し待て』と言う。そうすると何分、何秒待つんだと私は返すんです」。
一刻も早く決断してPDCAサイクルを高速で回したい。スピードこそが強みだという自らの経営スタイルを確立するために、父との衝突は一つの試練だったのである。
仕事をする上で大切にしていること
「中小企業の武器はスピード。意思決定と実行の速さだけだ」。
そのスピードを組織全体で実現するため、「情報伝達2時間ルール」を実行。いかなる不都合な情報も、2時間以内にトップまで上げるように徹底しているという。
多くの企業不祥事が、トップへの報告の遅れによって致命的な事態を招く現実をこれまでいくつも目の当たりにしてきた。風通しの良さという生易しい言葉ではなく、組織の生死を分ける反射神経として機能している。
さらに、その行動規範を全社員に浸透させるためのツールが「経営計画書」だ。あらゆる場面で『どう判断し、どう行動すべきか』という考えが全て詰め込まれている計画書は、社員が判断に迷うときのコンパスにもなる。
「『どうするか』をその都度悩む前に、『どうあるべきか』を先に決めておく。それが重要なんです」。
また、社員一人ひとりの「知的水準」の向上にも注力。たとえば、昇格の条件に日経テストのスコアを課し、管理職層は600点以上のクリアを必須としている。
「お客様のビジネスをサポートする以上、同レベルの知的水準がなければそもそも相手にされない。経済ニュースに触れない人間が、ビジネスの最前線でまともな相談に乗れるはずがない」。
社員を鍛え、顧客と対等なビジネスの共通言語を持つビジネスマンを作り上げることが重要だと確信している。
今抱えている課題
松下社長が見据える課題は、自社だけにとどまらない。日本の構造的な問題、すなわち「人口減少」という巨大な潮流に強い危機感を抱いている。
「毎年、日本人が90万人ずつ減っている。戦時中と変わらない状況なんです」。
国内マーケットの縮小により、企業は減り続ける椅子を奪い合う熾烈な「椅子取りゲーム」を強いられる。この現実に対して導き出した答えは「経営とはアップデートすること」だと断言する。
「考え方、判断基準、仕事のやり方、時間の使い方。全てをスピーディーにアップデートし続けなければいけないんです」。
また、もう一つの課題は人材の確保と育成だという。ただし、人が集まらないという課題ではない。
単なる厳選採用という言葉では片付けられない背景には、「入社後の教育で取り返すのは、難易度が高い。」と痛感した苦い経験がある。
松下社長が求める人物像として「明元素(明るく、元気で、素直)」を挙げる。これは単なる理想論ではなく、誰もがひねくれた人間とは一緒に仕事をしたくないという、極めて実践的な判断基準なのだ。
縮小するマーケットの中で戦い抜くためには、採用という入り口で一切の妥協を許さないという強い決意がそこにはある。
未来の展望
「我々が目指すのは100年企業。100周年をきちんと迎えられる会社であることに、規模の大小は関係ない」。
そのために目指す姿は、きちんと筋肉質な会社、きちんとした頭脳集団であり続けることだ。自らの頭で考えず、組織にぶら下がるだけの社員が増えれば、どんな大企業であっても傾く。自らが率いる組織を、一人ひとりが自律的に思考し、行動できるプロフェッショナル集団として鍛え上げることに全力を注ぐ理由を教えてくれた。
「プロスポーツチームが選手を鍛えるのは当たり前。会社もそうなんですよ」。
多くの経営者が社員の能力不足を嘆きながら、その育成を怠っている現状に疑問を呈する。知的水準を高め、自ら学び続ける文化を醸成すること。経営計画書によって行動の軸を明確にすること。これらの取り組みは全て、社長が細かく指示しなくても、社員が自ら最適な判断を下せる「自走型の組織」を創り上げるための布石なのである。
まとめ
先代である父との「何から何まで全部合わない」という激しい衝突は、世代間の価値観の断絶を乗り越え、自らの経営哲学を確立するための必然の過程であった。
そして、スピードこそがリソースに乏しい中小企業が生き残るための唯一無二の武器であるという答えにたどり着いた。「情報伝達2時間ルール」や、行動規範を明文化した「経営計画書」は、その哲学を組織に実装するための具体的な装置だ。さらには、社員を知的に「鍛える」ことを決して怠らない。「なぜ、自分の会社の社員を鍛えないのか?」という松下社長の問いは、多くの経営者の核心を突くだろう。
100年先も社会に必要とされる「筋肉質な会社」へ、そして質の高い「頭脳集団」へ。松下社長は今日も100年企業という壮大な目標に向かって、力強くアクセルを踏み込んでいる。